地方DX化のビジネスモデル確立に向けて函館市・北斗市に拠点を設置 行政、大学、地元IT企業とのコラボレーションで新たな価値を創造する

独立系の情報サービス企業として業務系システム開発・運用サポートや組込み系開発・検証に加え自社開発のプロダクトなど、広範囲なビジネスを展開しているデジタル・インフォメーション・テクノロジー(DIT)。金融機関をはじめ通信、製造業など幅広い顧客基盤を持っており、近年ではWebセキュリティソリューション「WebARGUS(ウェブアルゴス)」、Excel業務イノベーションプラットフォーム「xoBlos(ゾブロス)」など独自技術による自社製品が伸びている。足元の業績も好調で、25年6月期(2024年7月1日~2025年6月30日)は旺盛な需要とM&Aの成果もあり、売上高、利益ともに過去最高を更新、15期連続の増収増益を達成した。東京本社のほかに神奈川県、大阪府、仙台市、米国に拠点を持っているが、2013年には愛媛県松山市に拠点を開設、地域密着型のITビジネスを展開している。松山市への進出が第1弾とすれば、現在,第2弾として取り組んでいるのが北海道函館市、北斗市への進出である。北海道進出の背景には、市川聡社長が函館ラ・サール高校の出身だったこと、また函館分室の統括責任者である成田裕一執行役員が福島町出身で松前高校のOBで、共に函館に縁があったことに由来する。IT人材の確保が課題だったDITと地域活性化、雇用拡大を望んでいた函館市の思惑が合致して2023年11月「DXビジネス研究室函館分室」が設立された。同分室では、ローコード開発などの成長分野のニアショア事業、DX技術センター化、地元企業と連携した狭小商圏での地方ビジネスモデルの確立に取り組んでいる。そこで今回は地方活性化に向けて挑戦する市川聡社長と成田裕一(執行役員函館分室統括責任者)氏に話を聞いた。(聞き手/清水克久、構成・根本圭子)

愛媛では地方でしか働けない優秀な人材を発掘し、今や貴重な戦力に

―― 東京のIT企業が、“地方創生”というキーワードで事業展開をしている理由は。

市川 東京や大阪だけでもわれわれIT企業へのニーズは非常に大きいのですが、必要なリソースは残念ながら確保しきれません。特に今は少子高齢化でもあり、競合他社との人の取り合いですので、どうやって必要な人材を獲得するのかが大きな課題でした。一方、地方にはその地方でしか働けない優秀な人材がどの地域にもたくさんいます。その人たちにスポットライトを当て、働く環境をわれわれが提供すると大変生き生きと働いてくれます。首都圏だと様々なスキル、技術が身につくと、より大きな会社から声がかかったりしますが、地方ではずっと働いてくださる方が多いです。ロイヤリティーが高い意欲ある優秀な人材をしっかり確保していくことが地方に拠点を構えた目的です。また、採用だけではなく、地方ではITの活用やDXの取り組みがあまり進んでいないので、いろいろなソリューションを提案できるチャンスもあります。小さな自治体であれば、われわれと同じベクトルで動いてくださることが多いので心強いですし、それが、ひいては地方経済の活性化に貢献できると思っています。

―― 初めて拠点を設置したのは愛媛県松山市ですが、どのような理由があったのですか。

市川 創業者である実父の市川憲和前会長(故人)が愛媛県の大洲市出身だったというご縁です。それほど郷土愛が強いというイメージはなかったのですが(笑)ある年に、愛媛県および松山市の方が、地元愛媛県出身で大きく羽ばたいている会社に企業誘致の依頼で声掛けされており、父が2つ返事で快諾したようです。そしてお声掛け頂いてから数か月後の2013年の4月にはプロトタイプ的に松山市に拠点を構えました。その決断力やスピード感には驚きましたが、「仕事(の創出)をどうするんですか」と聞いたところ、「それは君たちが考えること」と返され、さあ大変だと思いましたね(笑)

―― スタッフの採用や運営はどうされたのですか。

市川 スターティングメンバーはとにかくしっかりした人を採用し、業務を任せられる陣容を整えるのが自分の役割だと思い、最初の4年間ぐらいは本当に苦労しました。ですが、最初に集めた20名がしっかりした人たちでいいスタートができていたこともあり、12年たった今では80名の拠点に成長しました。この20人のパワーがなかったら、今の当社のビジネスも若干遅滞していたかもしれません。地方拠点を出したきっかけは、前会長の直感的な判断だったかもしれませんが、この12年間の経験の蓄積は当社の貴重な財産になっていると思います。

―― 具体的には松山ではどのような仕事をされているんですか?

市川 大都市から請けた仕事のニアショア開発センターという意味合いが半分と、地元愛媛の企業の仕事や、通信・IT絡みの仕事ですね。それに加え愛媛県には実は長くから続く優良企業が沢山あるので、それらの企業のIT絡みの細かな仕事も頂いております。

―― 本社の業務を任せるだけでなく営業活動もしているのですね。

市川 ええ、地元に対して彼らは彼らで当然、営業をします。また東京側のカンパニーから依頼された仕事であっても愛媛から上京してくるときには、そういったお客様のところもしっかり訪問してコミュニケーションをとっています。東京側のカンパニーが気づかないうちに、その独自の繋がりを持って仕事の幅を広げていくケースも少なくありません。

―― オープニングスタッフの20名はどのような人たちだったのですか。

市川 基本的には若者でしたがベテランの方も思い切って採用しました。ユニークなところでは、なでしこリーグ傘下の「愛媛FCレディース」の選手もいました。元々彼女たちは朝や夜にコンビニでアルバイトをしながらサッカー選手をやっているような状態だったところを、練習に専念できるようにと、運営会社の社長から前会長に直接相談に来られて2つ返事で快諾しました。まさかイレブン全員ではと心配したのですが、実際採用したのは3名でした。その選手たちは10年のキャリアを経て引退の時期を迎えましたが、今は普通に当社のエンジニアとして大活躍しています。

―― 現状80名ということであれば、新卒を含めて積極的に採用を続けているのですね。東京本社への異動などもあるのですか

市川 新卒は毎年4、5名を採用しています。年によっては10名以上入ることもあります。大学卒、専門学校卒からの採用が多いです。東京への異動については本人の希望やスキルに応じて実施しています。例えば若い頃はチャレンジをして、親御さんのケアが必要になったときには地元に帰りたいという考え方のメンバーもいます。そういった人には若い時に本社で修業を積ませた上で、愛媛で働ける環境を提供しています。一方で、ずっと愛媛で働きたいという人には、初めから地元で仕事をしてもらっています。ただ、現在のIT業界は働き場所にとらわれず、どこに居ても仕事ができる環境になっています。当社はニアショアの業務も多いので、どこに居てもチャレンジできる仕事がたくさんあります。地元での快適な生活をしながらITの進化についていけるので学びも多いですし、意欲ある社員からDITを選んで本当に良かったですと聞いています。

公立はこだて未来大学など優秀なIT人材の宝庫である函館市の魅力

ここからは、函館分室起ち上げの立役者である成田氏も交えながらお話を伺います。

執行役員函館分室統括責任者 成田裕一 氏

―― さて、愛媛の他にも北海道の函館にもあるということでしたが、どういった経緯で始められたのでしょうか。

成田  函館分室起ち上げは、初期から私が関わってきました。私は58歳でDITに入社いたしまして、今年で6年目になります。その前までは大手ハウスメーカーの情報部門にいましたが、今のままで終わるのはなんだか勿体ない気がしていました。では何をやりたいかと考えたときに、最後のビジネスは地元に貢献したいなという気持ちがあったものですから、そういうことができる会社がないかなと転職活動を始めました。私の出身地である函館市には函館工業高等専門学校があり、多くのプログラマーを輩出しています。さらには、公立はこだて未来大学という、AIなどを学ぶ情報系に強い大学があります。ITを学べる環境があり、技術者を育成できるような場所でありながら、街はどんどん寂れていくことが本当に勿体ないと感じていました。この素晴らしい素材を活かせないかと模索する中で前会長、市川社長とお食事をする機会を頂きまして意気投合し、すぐに働かせて頂きます(笑)と採用されました。入社後、62歳の時に、たまたま知り合った函館のAI企業の社長さんにお会いしてお話する機会があったのですが、そこからすぐ事務所を構えようという話になり、函館市長さんとも面談でき、とんとん拍子に話が進みました。DITはエンジンがかかると仕事が加速する会社なものですから。(笑) 

―― AIに精通した教授陣がいる公立はこだて未来大学もあり、函館の人材は魅力的ですね。

成田  おっしゃる通りです。若手のベンチャー経営者や元税関職員、Uターン希望者など様々な人たちと出会い2020年に4名でスタートしました。まずやりたかったのは、AIの開発拠点を作ることでした。AIを軸に人材を集め、次に地方創生に興味がある人が集まってきました。県庁所在地である松山市と違い大企業があるわけではありません。ではどうしたかというと、まずはAI開発、そしてローコード開発、この2つの案件を大都市から受注し、高度なニアショア拠点として函館を位置づけました。まだスタッフが少なかったので函館のIT企業に協業のご提案をしたところ数社が協力して頂けることになりました。彼らと一緒に大都市のニアショアを受けながら、地元のために貢献できるサービスやDXを函館に広げていくという2つの活動を並行していくことで同意しました。

―― コストに見合うような仕事の量や質は確保できましたか?

市川 ニアショアが1つの核となり、単年度でほぼ売り上げ、利益はカバーリングできています。地元での実際の売り上げ拡大は今後の課題です。ただここは単純なシステム開発や人員派遣のビジネス拠点ではなく、新しい価値を創造する場所です。例えば現在、函館の病院や建設業者向けに業務効率化のためのプラットフォームをサブスク型で提供するというモデル展開を始めております。幸いモデルケースとなってくださる病院と出会い様々なシステムの開発にチャレンジしています。これらをいずれDXのシェアリングモデルとして展開していく予定です。あとはAI方面では、JAとの協力体制を作り、スマート農業などで活用できるサービスの開発を進めています。

―― 函館拠点の運営で、最も苦労したことは何ですか。

市川  人材の採用の話になるのですが、昨年は3名ほど、今年は5名ほどの新卒者の応募がありました。優秀な人材をたくさん採用したい気持ちはあるのですが、地元企業の皆様と人材の取り合うことは考えておりません。当社は、単なるお金儲けをするのが目的ではなく、地域の活性化や社会に貢献したいと願っています。そのため、将来のIT人材を育成し、「公立はこだて未来大学」への志願者を増やす取り組みを企業として進めています。

具体的な取り組みとした、DITでは、子供たちに、ドローン操縦やのプログラミング体験を提供したり、通信制高校でITの特別授業などを実施しています。また、農業高校へもお声掛けし、何か一緒にできることはないかと模索しています。今後、もっとITに興味を持ち、将来一緒に働ける人材を育てるために行政や学校、IT企業としっかりコミュニケーションを取っていきたいと思っています。

―― 国内のデジタル人材不足に対しても企業としても真剣に向き合っているということですね。函館拠点ではどのような方が働いていらっしゃいますか。

成田  現在のメンバーは、もともと函館に戻ってきたいと考えていた方が多いので意気込みが違います。函館でまさかこんなことができると思ってなかった!と、大変活躍してくれています。中には、大手製薬会社の研究所にいた方など驚くような経歴の方もいます。大都市でのビジネスで鍛え上げられた方たちが中心になっていますが、来年から新卒も入ってきますので、教育の仕組みも作っていきたいと思います。

―― 始まったばかりですが、5年後、10年後の未来予想図はどう描いていますか。

市川  まずは今、採用計画の見直しをしています。現実的に、採用はやはり難しい問題です。当初の予定よりはスローダウンさせていますが、徐々に増やしていきたいと思います。そして、ニアショア事業で協力いただける函館のIT企業に貢献できる部分をもう少し増やしていきたいと考えています。ニアショアの売上を維持しながら、社会貢献を続けていく、という2軸で進めていく方針です。

―― 行政や地元の企業からの反応はどうですか。期待も大きい一方で、難しいこともあるのではないですか。

市川  行政の方からの期待は当初から感じていました。とはいえ、われわれの目的は、地元の若者が函館で仕事をする環境を提供する企業として、しっかり取り組むことです。例えば企業誘致としてコールセンターを作った場合、函館で働いてきた人にとっては職種を転換しただけで、新規の雇用が増えるわけではありません。給与水準が上がるわけでもないのです。われわれはそうではなく雇用を増やす、しかも若い人を増やしていくのだという目的をもって活動しています。ただ単に人材の確保やモノを売るためにきたのではなく、ITの領域で地域の方々と一緒に新しい価値を創造するのが目的です。その意図を理解して頂けるようになって、市内の様々なイベントなどでお声掛けを頂く機会も増え大変感謝しています。

「北斗サテライト」では産官学が協力して実証実験の拠点に

―― 函館市と隣接した北斗市にも新たな拠点を開設されましたが、その経緯や狙いは何でしょうか。

市川  「北斗サテライト」は新函館北斗駅の前に構えています。立ち位置でいうと函館はマネジメント拠点、北斗サテライトはAIを専門に扱う活動拠点という位置付けです。拠点のある新函館北斗駅には北海道新幹線が停まるのですが、将来札幌までの延伸が叶えばこの周辺ももう少し拓けていくと期待されています。それに伴い、北斗市は企業誘致などにも力をいれておりお声掛けいただきました。駅前の大変便利な場所を北斗市から紹介頂いたのですが、元々は地元の建設会社がショールームとして使用していたところで、使い勝手もよく働きやすいオフィスになりました。

―― 北斗サテライトでは面白い試みもされているようですね。

成田  大変綺麗なデジタルキッチンがあり、そちらに高感度カメラなどの撮影機材やYouTube配信用の機材などを揃えました。要はスタジオのような設備なのですが、そこを有効活用して、例えば地元の食材をYouTuberさんに調理していただいたり、農家と提携したユニークな企画を発信したりしています。また、カフェのようなスペースを作り、学生とコミュニケーションする場にしました。ふらっと来てもらって、函館で起業してみたいという学生とお話をしています。

さらには農家と学生と連携をし、スマート農業に向けてのインターンシップの実施や、新函館北斗駅の人の流れを解析し、観光業の活性化に貢献できるような提案なども行いました。どちらもAIを駆使した試みです。その他にもドローンの自動操縦のプログラミングなど、全国的にもニーズが高い研究も進めています。この北斗サテライトが、AIやDX全般において、学生たちや地元の人達とのコミュニケーションを深める拠点となっています。

―― 行政の期待はもちろん大きかったとは思いますが、学生や地域の方々の熱量が上がってきたよう実感はありますか。

市川 実感はありますね。2024年度から公立はこだて未来大学が、国の仕組みとは別の独自制度(居住地特例制度による授業料等減免)をスタートさせており函館市や北斗市、七飯町出身の学生の授業料が免除されるようになりました。その対象になった学生たちが今、少しずつ増えてきています。われわれ企業としても地元の学生にITの面白さを伝える取り組みを通じて、将来函館で働きたいと思ってくれる人材が増えてきている感触があります。今年入社した新卒者を見ると、函館出身者ではなく大阪と札幌出身の方でした。大阪出身の方は函館が好きになってそこに残って暮らしたいと思った時、大阪にも拠点があるDITが魅力的に思えたそうです。家族の事情で大阪に戻らなければいけなくなった時に、そこに拠点があれば安心ですよね。逆に今年の新卒内定者は全て函館出身ですが、希望勤務地は東京でした。先ほど同様、“いつか戻る”のパターンですね。

IT は働く場所を問わないビジネスで地方には魅力が溢れている

―― 地方の人口流出は全国的な問題ですが、地方の特性を生かした解決策はありますか。

市川  例えばですが、ドローンのプログラミング授業ひとつとっても、ひょっとしたら、函館で競いあったドローンの開発チームが増えてきたら、全国のドローン関係の仕事をここに集約することもできます。そのためには人の確保が必要になるのですが、そういった子どもたちの育成を企業でやっていきませんか、という話はしています。ドローンは実際に飛ばさなくても、シミュレーターで動きを確かめることができます。またプログラミングできるツールのようなものもあるのですが、それだけで全てができるわけではありません。実際に飛ばさないと分からないことも多いのですが、都心部では出来ません。地方であれば飛ばせる場所はいくらでもあります。ドローンの自動運転のニーズは今後非常に高くなるはずですので、函館市と連携して進めていこうと思っています。

―― 北海道は農業が基幹産業ですが、作業の効率化など貢献できそうな分野は多いでしょうね。

成田  農業で言うと、当社の機材をシェアリングするサービスなどもはじめています。要望をヒアリングし、そこにあわせたプログラミングすると、オペレーター1人で何ヘクタール分も作業ができます。大規模農業化している農家などは大型農機のシェアリングをスタートさせているのですが、小規模農家ですと難しい。函館でこうしたシェアリングと自動運転がうまくいったら、このモデルを絶対に北海道内に持っていけるはずだと考えています。いかに簡単にプログラミングするかなどを突き詰めているところです。

―― ありがとうございます。最後に、ITやDXを活用し、地方にどんな貢献できるのか、今どのような業種に期待しているかなどお聞かせください。

市川  われわれは、ITは場所を選ばないと思っています。地元の優秀な人たちへわれわれのノウハウを移植し、大都市の様々な企業から必要とされるものが地方で作れるようになっていきます。逆に地方の企業や行政に対しては、DXの普及などで貢献ができると考えています。前会長との縁があった愛媛県松山や、弊社の成田と縁があった函館と同じように、地方出身者で、地元に戻るために仕事を辞めざるを得ないなんていう人にミッションを与え、「その地域で拠点構えるからそこでやってくれ。その代わり、東京で培った人脈仕事を持って帰って、地元で優秀な人を採用して、チームとしてやっていくんだよ」なんていうことも可能です。すると多分、どの地方でも可能性はあるのかなというのは感じますね。今後も積極的に地方の発展、活性化に貢献していきたいと思います。

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